不眠と鍼灸治療② 睡眠障害の分類と不眠症への鍼灸治療の効果

不眠や睡眠障害でお悩みの方の参考になればと思い、睡眠障害の種類や不眠・睡眠障害に対する鍼灸の効果についてまとめました。
鍼灸で不眠を改善したい方のヒントになれば幸いです。

目次

睡眠障害の分類

睡眠障害には、不眠症以外にもいくつか分類があります。

睡眠障害を大まかに分けると下記のようになります。

1.不眠・過眠

  • 不眠症:入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害など
  • 過眠症:日中の慢性的な眠気や突発的な強い眠気が生じる

2.睡眠中の異常な呼吸・感覚・運動・行動

  • いびきや呼吸停止などの呼吸異常、四肢のムズムズ感やほてりなどの異常感覚
  • こむら返りやけいれんなどの不随意運動
  • 徘徊や激しい手足の動きなどの異常行動

3.睡眠リズムの異常

  • 遅寝や早寝、昼夜逆転、睡眠時間帯の変化(徐々に後方にずれ込むなど)
  • 夜更かしをする若年者や夜勤をする仕事(看護師など)に多い

睡眠中に呼吸が止まっている、夜間に手足に異常感覚があったり、無意識的に動いてしまったりする、十分な睡眠をとっても日中に過眠が生じる、生活リズムと外部の明暗サイクルとの間にずれが生じている…

このような睡眠障害は鍼灸治療の適応にはなりにくいので、専門的な医療機関の受診をおすすめしています。

ですが、医療機関を受診したうえで、薬物療法などと鍼灸治療を併用することは睡眠状態の改善に役立てることもあります。

睡眠にお悩みを抱えている方がいらっしゃいましたらお気軽にご相談ください。

鍼灸治療の適応になりやすい不眠症とは(その1)

睡眠障害にはいくつか分類がありますが、その中でも鍼灸治療の適応になりやすいのは「不眠症」です。

不眠症とは、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒などの睡眠問題があり、そのために日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する病気です。

一般成人の30〜40%が何らかの不眠症状を有しており、女性に多くみられるのが特徴です。

また、不眠症状のある方のうち、長期的に不眠が持続する「慢性不眠症」は成人の約10%にみられるともいわれています。

不眠の原因は、こちらの表でお示しする5つの要因の頭文字をとって「5P」と分類されます。

身体的要因(Physical)疼痛性疾患、発熱性疾患、痒みを伴う状態、頻尿、呼吸器疾患など
生理学的要因(Physiologic)騒音、光、不快な温度、時差ぼけなど
心理学的要因(Psychological)ストレス、緊張、親族の死、結婚や子供の出生、金銭面トラブルなど
精神医学的要因(Psychiatric)うつ病、統合失調症、不安障害、PDSD、認知症など
薬理学的要因(Pharmacologic)アルコール、カフェイン、ニコチン、ステロイドなど

不眠症の原因は人それぞれですので、原因に合わせた対処法が必要となります。

鍼灸治療を行う際は、お一人お一人の睡眠の原因を丁寧なカウンセリングにより探索し、原因に応じた鍼灸治療をご提案します。

また、不眠症の原因には睡眠環境や就寝前の行動に問題がある場合もあります。

これを「睡眠衛生」や「睡眠習慣」といい、どちらか、あるいは両方に問題がある場合、問題となっている状況や行動を改善するだけでも質の良い睡眠を得ることもできます。

鍼灸院では、鍼灸治療に併せてこのようなセルフケアもご提案し、よりよい睡眠を目指していきます。

鍼灸治療の適応になりやすい不眠症とは(その2)

今回は不眠症がどのような疾患か、もう少し詳しくご説明します。

不眠症にはいくつかの診断基準がありますが、それらをまとめると・・

  1. 不眠と日中の不調が週に3日以上続く。
  2. 日中の生活に支障が生じ、生活の質(QOL)が低下する。
  3. 睡眠困難に関連した多彩な心身の不調を訴える。

このように要約することができます。

不眠症の主な症状は、

  1. 入眠障害:本人が30~60分以上寝付けず苦痛と感じる。
  2. 中途覚醒:一度入眠しても、翌朝起床するまでに何度も目が覚める。
  3. 早朝覚醒:通常の起床時刻の2時間以上前に覚醒し、その後入眠できない

などの睡眠の障害に加え、倦怠感、意欲低下、集中力低下、抑うつ、頭重、めまい、食欲不振といった症状が出現します。

不眠症で重要なことは、不眠により日中の眠気や様々な症状により生活に支障が生じていることです。つまり、眠れていないと感じていても、日中に支障がなければ不眠症とは診断されないのです。

多いのは、「特に困ってはないけど、昔よりも睡眠時間が短くなってしまって…」という訴えです。

実は加齢とともに睡眠時間は減少するので、大きな心配はいりません。

深い睡眠(ノンレム睡眠)の割合も減って来るので、「熟眠感が少ない」と感じることもありますが、日中に問題がなければ大丈夫です。

ですが、熟眠感がなくて困っているのも事実です。

鍼灸治療をすることで早く入眠でき、深い睡眠に改善することが報告されています。

Wang C, et al. Impact of Acupuncture on Sleep and Comorbid Symptoms for Chronic Insomnia: A Randomized Clinical Trial. Nat Sci Sleep. 2021;10;13:1807-1822

不眠症とまではいかなくても、「なんとなく眠れない…」と感じられたら是非一度鍼灸治療をお試しください。

不眠症への鍼灸治療の効果

これまで、睡眠障害の分類や原因、不眠症の症状などについてお話してきましたが、今回は不眠症への鍼灸治療について詳しくご紹介します。

不眠症への鍼灸治療の効果を明らかにした論文は世界中から報告されています。

例えば、不眠に悩む患者さんに鍼灸治療を行い、アンケートによる主観的な症状の変化とポリソムノグラフィという客観的な睡眠状態の変化を測定したところ、鍼灸治療後に患者さんの主観的な不眠症状が改善し、客観的にも睡眠の質が改善する結果が得られました。

Wang C, et al. Impact of Acupuncture on Sleep and Comorbid Symptoms for Chronic Insomnia: A Randomized Clinical Trial. Nat Sci Sleep. 2021;10;13:1807-1822

このように鍼灸治療を行うことで、主観的・客観的な不眠の改善が示されています。

また、多くの不眠患者は抑うつや不安など心理的な問題も抱えています。

頭や手足のツボに鍼灸治療を行うことで、不眠症状だけでなく、気分の状態も改善することが報告されています。

さらにストレスホルモンといわれる「コルチゾール」が減少することや癒しホルモンといわれる「セロトニン」が増加することも確認されており、気分も改善する理由が分かってきました。

Liu C,et al. Randomized controlled trial of acupuncture for anxiety and depression in patients with chronic insomnia. Ann Transl Med. 2021;9(18):1426.

このような効果の背景には、鍼灸治療の持つリラックス効果が関与していると考えられます。

つまり、自律神経を調整し、からだを副交感神経優位(=リラックス)の状態にできることが研究で明らかになっています。

Akita. Effects of Acupuncture on Autonomic Nervous Functions During Sleep- Comparison with Nonacupuncture Site Stimulation Using a Crossover Design. J Integr Complement Med. 2022;28(10):791-798.

このような反応は、皮膚表面のごく浅い鍼の刺激によっても生じています。

患者さんが鍼灸治療中にグーグーと寝息を立てていることも珍しくありません。

これは鍼灸治療により、体のリラックススイッチが入っているからなんですね。

このように、鍼灸治療は自律神経を調整し、睡眠の質を高めることができます。

睡眠でお悩みの方は是非一度鍼灸師に相談してみてはいかがでしょうか?

松浦 悠人
 著者:松浦 悠人(鍼灸学 博士)
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