冷えは、東洋医学では傷寒病と呼ばれる急性熱性疾患(いわゆる風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症も含む)の状態を判断する重要な所見のひとつです。悪寒があるということは寒、つまり冷えによって身体が病んでいると判断します。
冷えていて発熱するの?と思われると思いますが、寒(冷え)によって身体の機能が低下して風邪を引くこともあります。寒(冷え)て機能が低下したり、身体の免疫機能が低下すると、ウイルスに感染しやすい土壌ができあがります。つまり身体が弱って感染します。その身体が弱って抵抗力が低下した状態から免疫力を高めて、感染したウイルスを追い出し身体の症状を回復するために発熱します。
つまり寒(冷え)の影響から風邪症状が起きた場合も、その寒(冷え)を解消するために風邪症状が起きたり発熱したりするわけです。東洋医学からみると、冬場にインフルエンザが流行する背景には寒(冷え)が影響しています。現代では、夏場も冷房による寒(冷え)があり、昔の傷寒病とは違うタイプの傷寒病もでてきています。
鍼灸と身体の免疫の関係性
2014年に出版された「鍼灸臨床最新科学 ーメカニズムとエビデンスー」には免疫系に関する鍼灸の作用のまとめがあり、それを簡単にご紹介すると、
①鍼灸治療は身体の免疫のメイン細胞であるNK細胞を増殖して活性化させる。
NK細胞はがん細胞など身体のなかにある異物を攻撃する兵隊役である、リンパ球の一種です。 直訳すると『生まれながらの殺し屋』という名前の通り、がん細胞やウイルスに感染した細胞などの異常な細胞を見つけ次第、すぐに攻撃します。
②鍼灸治療は様々なサイトカインの産生を促し、抗体産生能を高める。
サイトカインは主にタンパク質からできており、細胞から生産・分泌される物質です。サイトカインは細胞同士の情報を伝達し、免疫細胞を活性化させたり抑制したりするはたらきを持っており、免疫機能のバランスを保つための重要な役割を担っています。抗体を産生する能力を高める働きがあります。
③鍼灸治療は自律神経系や内因性オピオイドを介して免疫機能に影響を与える。
自律神経系は血圧や呼吸数など、体内の特定のプロセスを調節している神経系です。 自律神経系の病気は、体のあらゆる部分とあらゆるプロセスに影響を及ぼす可能性があります。内因性オピオイドは体内で作られ、生体に危機が迫ったときに放出される物質で、身体の機能を著しく高めます。
鍼灸治療はこれらの免疫機能を高める可能性があるため悪寒の治療にも効果を発揮する場合があります。また新型コロナウイルス感染症の後遺症は、風邪様の症状も多く身体の免疫機能を高めることは早期の回復につながります。
鍼灸治療に来院される多くの方は寒(冷え)があります。冷えに対する考え方は3つ。
1.保温
読んで字のごとくですが、重ね着や常時靴下をはくなどがこれにあたります。ただし保温は熱を外に逃がさない工夫であり、外からの冷えを防ぐ工夫です。これは体熱がある事が前提になっています。つまり、いくら保温したところで元々冷えている場合にはそれ以上の放熱は防げるが温まる事はあまりありません。保温はとても大事ですが身体に熱量がある事が前提になります。
2.加温
熱を外から加えることです。お風呂に入る、お灸をする、なにかで温めるなどがこれにあたります。加温して保温すればある程度の熱を保つことができますし、定期的に加えていくと底上げはされていく事が多いため有効です。しかし、自分の身体から熱量が生まれているわけではないので、定期的に加え続ける必要があります。
3.産熱
自分の身体から熱を生みだすことですが、これは主として運動で、その補助として胃の状態が挙げられます。ラジオ体操などの簡単な運動をして、自分の身体の中から熱を生みだすことが最も効率的です。また胃が健やかであれば、産熱しやすいです。食べ物はカロリーと表記されますが日本語に訳すと熱量とされます。胃などの消化器系が十分に機能していれば熱量は生み出しやすいといえます。
YI’N YANGの鍼灸治療
YI’N YANGの鍼灸治療は、治療による心地良さを重視しています。近年の研究で、心地よさを伝える神経(LTM-C)は優しく穏やかな鍼灸の皮膚刺激によって最も良く働くことが考えられるようになりました。優しい穏やかな鍼灸によって心地よさを伝える神経が良く働き、オキシトシンやドーパミンと呼ばれるホルモンが放出される可能性があります。このドーパミンは身体機能、運動、学習、感情、意欲、ホルモンの調節など多くの生命活動に関与しており、オキシトシンは幸福感を高めたりストレスの軽減に関与しています。
心地よい鍼灸治療は、これらの神経やホルモンが関与して身体の症状を減らしたり取り除いたりします。鍼灸治療の元来もつ痛みの治療効果と、心地よい鍼灸治療による治療効果で鍼灸治療の良さを最大限に引き出します。