妊娠・出産におけるマイナートラブルは様々ありますが、その中でも発生率が高いのが「痔」です。妊娠初期から産後1ヶ月までの間でおおよそ5人に2人の割合で発生すると報告されています。妊娠中・後期の期間に絞ってみると約85%が「いぼ痔」を発症したという報告があるほどです。
痔とは?
「痔」というのは、肛門周辺の疾病の総称を指します。
いぼ痔・きれ痔・痔ろうの3つが肛門の三大疾病と言われるほど痔の中でも発生頻度が多くあります。
また、日本人の3人に1人が痔主(ぢぬし)=痔の持ち主と言われるほど身近な疾病です。
痔になる原因
「痔」になる主な原因は、便秘・下痢・排便時のいきみ・座りっぱなしなどがあります。
例えば、便秘の場合は硬い便を出すのに必要以上にいきんでしまい肛門周辺がうっ血して「いぼ痔」になったり、肛門上皮が切れて「きれ痔」になってしまいます。
下痢の場合も勢いよく水様便が出ることで肛門に負担をかけてしまい「痔」に繋がります。
なぜ妊婦さんは痔になりやすいの?
妊娠が進むにつれて子宮が大きくなります。そのため、腸や血管が圧迫されて血液の循環が悪くなったり便秘を引き起こしやすくなります。
また、妊娠によってプロゲステロンの分泌が増加します。プロゲステロンは大腸のぜんどう運動を抑制する働きがあるため、便秘になりやすくなってしまいます。
さらに、出産時のいきみにより肛門に負担をかけてしまうことや出産時の会陰切開や裂け目の縫合により肛門周辺の筋肉や神経を痛めてしまうことで「痔」を誘発することもあります。
痔の予防と対策
「痔」にならないようにするには、便秘にならないようにする事がとても大切。
妊婦さんの場合、ホルモンの影響やお腹が大きくなるなど物理的に避けられない要因があるのは事実ですがその他に出来ることがあります。
また、下記に挙げることは妊娠する前からしっかりと習慣づけて整えておく事が大切です。
1. バランスの良い食事をとる
便は食べカスでできている様に思う方が多いですが、便の構成は7〜8割「水分」、残りの2〜3割は「剥がれた腸粘膜など」、「食べかす」、「腸内細菌」で水分以外の構成要素はおおよそ同じ割合だと言われています。
便において食べカスが占める割合は案外少ないという事です。なので、食べる量もある程度は大切ですがそれよりも腸内環境を整えるために
バランスよく食事をし硬すぎない良い便を作ることが便秘予防となります。
2. 適度な運動
妊娠するとお腹が大きくなり動きにくくなってしまいますが、無理のない範囲でウォーキングなどの軽めの運動をすることはおすすめです。
というのも、適度な運動をして筋肉を動かすことは腸への刺激となり便秘予防となります。
3. 便意を我慢しない
妊婦さんに限らず女性は便意を我慢してしまい便秘を誘発している方が多くいます。
便は7〜8割が水分と先述しましたが、便意を我慢し腸内で便が停滞すればするほどに便の水分というのは腸に吸収されていってしまいます。それが原因で便秘になるケースも少なくありません。
便意を感じたらすぐにトイレにいきましょう。
痔の鍼灸治療
まず、「痔」の一般治療は薬物療法と手術が挙げられます。「痔」だと思うと恥ずかしい気がしてなかなか病院に行けないと言う方が多くいらっしゃいますが、「痔」の症状など気になる事があった場合は肛門科をすみやかに受診してください。
初期で軽度の「痔」に関しては鍼灸治療だけでもよくなるケースは多々あります。
ただ、「痔」の状態がどんなものなのか、そもそも本当に「痔」であるのかどうか私たち鍼灸師は診断や判断ができません。ですので病院と鍼灸治療を上手に併用する事がおすすめです。
妊婦さんの「痔」はお腹が大きくなることでの血液の循環不良や便秘によるものからくると先述しました。鍼灸治療で全身の血液循環を促すと同時に、腸などの内臓の血液循環をよくしていきます。
また、便秘がある方には排便を促すように鍼灸治療をします。
便秘に関する鍼灸治療については下記コラムをご参照ください
「痔」の重症度などによっては手術が必要とされることもあります。その場合も鍼灸治療との併用がおすすめです。
術後の痛みに対して鎮痛剤よりも鍼灸治療の方が鎮痛効果が高いもしくは持続する場合があるなどの報告がされています。
https://www.hindawi.com/journals/cmmm/2022/5627550/
また、「痔」についての相談は周りになんとなくしにくいなと言う方が多くいらっしゃいますが、私たち鍼灸師はそういったセンシティブなお悩みを抱えている方に多く向き合っております。
YI’N YANGのスタッフには多様な臨床経験を持っているスタッフが在籍してますのでちょうど良い相談相手としても使って頂けたらと幸いです。
著者:来間